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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(行ツ)40号 判決 1985年4月23日

上告人

日産自動車株式会社

右代表者

石原俊

右訴訟代理人

小倉隆志

被上告人

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衛門

右参加人

全国金属労働組合

右代表者中央執行委員長

高山勘治

右参加人

日本労働組合総評議会全国金属労働組合

東京地方本部

右代表者執行委員長

森野徳雄

右参加人

日本労働組合総評議会全国金属労働組合

東京地方本部プリンス自動車工業支部

右代表者支部長

大野秀雄

右三名訴訟代理人

小池貞夫

秋山泰雄

中村清

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小倉隆志の上告理由第一点について

所論の点に関する原判決の説示の趣旨は、労働条件の決定等に関して使用者のとつた労働組合ないしは労働者に不利益な特定の行為が使用者の自由に属する範囲の行為であるか、それとも労働組合活動に対して不当な影響力を行使するものとして不当労働行為と目すべきものであるかを判断するにあたつては、単に問題となつている行為の外形や表面上の理由のみを取り上げてこれを表面的、抽象的に観察するだけでは足りず、使用者が従来とつてきた態度、当該行為がされるに至つた経緯、それをめぐる使用者と労働者ないしは労働組合との折衝の内容及び態様、右行為が当該企業ないし職場における労使関係上有する意味、これが労働組合活動に及ぼすべき影響等諸般の事情を考察し、これらとの関連において当該行為の有する意味や性格を的確に洞察、把握したうえで判断を下すことが必要であるとの見地から、右のような使用者の行為について不当労働行為の成否が問題となつている救済命令取消訴訟において、裁判所が右不当労働行為の成否を判断するについては、単に労働委員会の作成した命令書記載の理由のみに即してその当否を論ずべきものではなく、その判断の基礎となつたと考えられる背景事情等にも十分思いをめぐらしたうえで総合的な視野に立つて結論を下すべきであるとの認定、判断の心構えを述べているものであつて、所論のごとく不当労働行為の成否について労働委員会に裁量権があり、これについて裁判所が立ち入つた判断をすべきでない、との趣旨を述べたものでないことは、判文に徴して明らかである。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は失当である。論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点及び第三点について

一まず、所論は、「従業員の時間外及び休日労働について、申立人支部に所属する者をそうでない者より不利益に取り扱つてはならない。」という本件不当労働行為救済申立の趣旨は、製造部門については、参加人日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部(以下「支部」という。)所属組合員にも後記四1(一)のような計画残業に服せしめよということにほかならないとの見解を前提としたうえで、そうである以上、本件救済申立を認容するためには、支部所属組合員に計画残業に服する意思の存在すること、支部が上告人会社に計画残業に服せしめるべきことを要求したこと、上告人会社がこの要求を拒否したことの三つの要件が必要であるところ、本件においては、支部所属組合員が計画残業に服する意思を有することはなんら主張立証されず、かえつて、支部及びその所属組合員が計画残業に反対し、これに服することを拒否していることは明らかであるから、本件救済申立は棄却されるべきものであるにもかかわらず、これと異なる判断をして本件再審査命令を維持した原判決には、審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法及び憲法六五条、七六条違背がある、というものと解される。

しかしながら、不当労働行為救済申立制度は、労働問題を取り扱う専門機関として設けられた行政委員会たる労働委員会が、一定の救済利益を有すると認められる者の申立に基づき、申立人が不当労働行為を構成するとして主張した具体的事実の存否及びその事実が不当労働行為に該当するか否かを審理判断し、それが肯定される場合には、その裁量により、当該具体的事案に即して、当該不当労働行為による侵害状態の除去、是正のために必要と認めた作為、不作為の措置を命ずることによつて、労働者の団結権を保護し、正常な集団的労使関係秩序の回復、確保を図ろうとするものである。したがつて、申立人が救済命令を申し立てるにあたり申立書に記載すべきものとされる「請求する救済の内容」(労働委員会規則三二条二項四号)は、労働委員会が不当労働行為の成立を認めたうえで、しかるのちこれに対する救済を命ずる場合に、その命ずべき救済の内容に関する労働委員会の裁量の範囲を画する意味を持つことがあるにとどまり、不当労働行為救済申立事件における労働委員会の審理が右「請求する救済の内容」の当否についての判断を直接の目的として行われるというものではない。これと異なる前提に立つ論旨は、失当である。

のみならず、後記のような原審の適法に確定した本件救済申立の経緯に関する事実関係によれば、本件不当労働行為救済申立は、所論のように支部所属組合員にも計画残業に服せしめよというような限定された救済を求める趣旨でされたものでないことはおのずから明らかである。論旨は、本件救済申立の趣旨について、右と異なる解釈のもとに原判決を論難するものであつて、採用することができない。

二ところで、所論は、支部所属組合員に計画残業に服する意思がなく、あるいは支部が計画残業に反対し、これに服することを拒否している以上、その所属組合員に残業を命じない会社の措置につき不当労働行為は成立しないと主張し、その見地から、本件につき不当労働行為の成立を認めた原判決の不当をいう趣旨であるとも解せられる。そこで、以下これについて判断する。

1原審の適法に確定するところによれば、本件不当労働行為救済申立の経緯及びその後本件再審査命令が発せられるまでの団体交渉の経緯は、次のとおりである。

すなわち、昭和四一年八月一日に旧プリンス自動車工業株式会社(以下「旧プリンス」という。)を吸収合併した上告人会社には、全日産自動車労働組合(以下「日産労組」という。)と支部との二つの労働組合が併存し、支部はかねてから深夜勤務反対等の情宣活動を行つていたところ、昭和四二年二月から、上告人会社は、支部に対してなんらの申入れ等を行うことなく、日産労組とのみ協議しただけで、上告人会社が従来その工場の製造部門で実施してきた昼夜二交替の勤務体制(いわゆる日産型交替制)及び計画残業方式を旧プリンスの工場の製造部門にも導入し、それ以来、同部門においては、日産労組所属の組合員のみを右交替制勤務に組み入れ、かつ、同組合員に対し恒常的に計画残業と称する一日一、二時間の時間外勤務及び月一回程度の休日勤務をさせてきたが、支部所属の組合員に対しては、一方的に早番(右交替制における昼間勤務のこと。これに対し、夜間勤務を遅番という。)のみの勤務に組み入れ、かつ、残業(時間外勤務及び休日勤務をいう。以下同じ。)を一切命じないとの措置をとつた。また、交替制勤務のない間接部門(事務・技術部門をいう。以下同じ。)においても、日産労組所属の組合員に対しては、同労組との協定に基づき、業務の必要に応じて一日四時間、一か月五〇時間の範囲内で残業を命じたが、支部所属の組合員に対しては右同月以降全く残業を命じなくなつた。支部は、当初は残業に関する右会社の措置につき抗議したり、是正を要求したりすることはなかつたが、同年六月、支部所属組合員にも残業をさせるよう上告人に申し入れ、同月三日以降同年一一月二八日までの間の数回の団体交渉において右残業問題を取り上げ、支部所属組合員を残業から除外しているのは上告人会社の方針かどうか、その理由は何か、などの点を追及した。これに対し、会社側は、右の点は会社の方針ではないとしたうえ、「残業をさせないのは現場職制との信頼関係の問題だ。支部が残業反対をとなえ、必要なときに残業をやつてもらえないということでは各職制も残業を頼めなくなるだろう。」等の趣旨のことを述べ、これに対して支部は、「支部が反対しているのは強制残業についてであつて、三六協定に基づく残業には従来から協力してきた。」等の趣旨のことを述べるなどの応酬で推移し、進展をみなかつた。そこで、支部は、同年一二月一五日、上告人会社に対して、夜間勤務に応ずる条件として、① 週五日制とすること、② 昼間よりベルトコンベアのスピードを落とすこと、③ 夜勤手当を増額することなどを要求して団体交渉を申し入れるとともに、同月二七日、残業問題をめぐる紛争について東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)に斡旋を申請した。昭和四三年一月二六日、都労委の斡旋員の勧告に基づいて行われることになつた右残業問題に関する支部との団体交渉の席上において、上告人会社は、初めて、支部に対し、(1) 日産型交替制と計画残業は組み合わされて一体をなすものであるとして、その内容及び手当等について具体的な説明を行うとともに、(2) 日産労組は右のような勤務体制を承認し、これに服しているのであるから、支部もこれと同じ態度をとらない限り支部所属組合員を残業に組み入れることはできない、との態度を示し、また、(3) 夜間勤務のない間接部門においては、各職場の職制がその判断によつて残業をさせるが、各職制が支部所属の組合員に残業をさせないのは、一般に同組合員が日産労組所属の組合員と同じ勤務体制に服する姿勢を示さないからであると考えられるとの趣旨を述べた。そして、上告人会社は、支部が夜間勤務に応ずる条件として提示した前記諸要求についてはこれを拒否した。これに対し、支部は、残業協定と夜間勤務協定とは別個の問題であり、夜間勤務については原則的には反対する旨を述べ、現在の条件のままでは夜間勤務には応じられないとし、結局交渉はもの別れに終つた。そこで、同年二月二二日、支部は、参加人全国金属労働組合(以下「全金」という。)及び同東京地方本部とともに、上告人会社が支部所属組合員に対し残業を命じないことは、支部所属の組合員であるというだけの理由で日産労組所属の組合員と差別し、支部所属組合員に経済的不利益を与えようとする不当労働行為であるとして、都労委に対し、「上告人会社は、従業員の残業について、支部に所属する者をそうでない者よりも不利益に取り扱つてはならない」旨の本件救済申立をした。

右申立に対し、都労委は、昭和四六年五月二五日付で、支部所属組合員に残業を命じない上告人会社の措置につき不当労働行為の成立を認め、「上告人会社は、支部所属の組合員に対し時間外勤務(休日勤務を含む)を命ずるにあたつて同支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取り扱つてはならない。」旨の救済命令(以下「本件初審命令」という。)を発した。そこで、上告人会社は、被上告人に再審査の申立をするとともに、同年六月一八日から翌四七年四月一八日までの間、合計八回にわたつて支部と右残業問題に関する団体交渉を行つた。右交渉において、上告人会社は、支部に対し、製造部門については日産労組所属の組合員と同様に交替制と計画残業に服すべき旨を主張し、また、右勤務体制のとられていない間接部門については、以後残業を命ずることにするのでこれに服するよう申し入れた。これに対して、支部は、交替制に伴う夜間勤務には原則的に反対である旨の従来の立場を主張し、また、間接部門については、支部所属の組合員はほとんど残業を必要としないような作業や質の低い作業に就かされているので、その改善が先決であり、その点が解決されない限り会社側の提案は受け入れることができない旨主張した。

このようにして、製造部門、間接部門とも残業問題について合意をみるに至らず、上告人会社は支部所属組合員に残業を命じないとする措置を継続していたところ、被上告人は、昭和四八年三月一九日付で再審査申立を棄却する旨の本件再審査命令を発した。

2以上によれば、本件救済申立事件における不当労働行為成否の要点は、上告人会社内には日産労組と支部という二つの労働組合が併存しているところ、上告人会社が先に日産労組との間に締結した労働協約に基づき実施している勤務体制(いわゆる日産型交替制勤務)及び右勤務体制の一環としてこれに組み合わされている計画残業に支部がかねてから反対し、残業に関する団体交渉が行われたのちにおいても、支部は、日産労組所属の組合員が服しているのと同一の労働条件による残業には服し難いとして、これについての協定を締結することを拒否したという状況のもとにおいて、上告人会社が支部所属組合員に対して一切の残業を命じないとの措置をとり、これを維持していることが労働組合法(以下「労組法」という。)七条三号の不当労働行為を構成するかどうか、という点にある。

三そこで考えるに、労組法のもとにおいて、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には、各組合は、その組織人員の多少にかかわらず、それぞれ全く独自に使用者との間に労働条件等について団体交渉を行い、その自由な意思決定に基づき労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する権利を有するのであるから、併存する組合の一方は使用者との間に一定の労働条件のもとで残業することについて協約を締結したが、他方の組合はより有利な労働条件を主張し、右と同一の労働条件のもとで残業をすることについて反対の態度をとつたため、残業に関して協定締結に至らず、その結果、右後者の組合員が使用者から残業を命ぜられず、前者の組合員との間に残業に関し取扱いに差異を生ずることになつたとしても、それは、ひつきよう、使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎないものというべきであつて、この問題を一般的、抽象的に論ずる限りにおいては、残業について両組合員間に右のような取扱上の差異を生ずるような措置をとつた会社の行為につき不当労働行為の問題は生じないものといわなければならない。

しかしながら、右の議論は、あくまでも当該団体交渉の結果について、組合がその自由な意思決定に基づいて選択したものとみられうべき状況のあることが前提であることはいうまでもない(この場合、当該組合の組織が小さく、交渉力が弱いために、結果として使用者に対し組合の要求を通すことができなかつたとしても、それをもつて自由な意思決定によらないものであるとすることはできない。)。そして、右のような団体交渉における組合の自由な意思決定を実質的に担保するために、労組法は使用者に対し、労働組合の団結力に不当な影響を及ぼすような妨害行為を行うことを不当労働行為として禁止すると同時に、かかる不当労働行為から労働組合と労働者を救済することとしているのである。右のように、複数組合併存下にあつては、各組合はそれぞれ独自の存在意義を認められ、固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されているものであるから、その当然の帰結として、使用者は、いずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行うべきことが義務づけられているものといわなければならず、また、単に団体交渉の場面に限らず、すべての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによつて差別的な取扱いをすることは許されないものといわなければならない。

ところで、中立的態度の保持といい、平等取扱いといつても、現実の問題として、併存する組合間の組織人員に大きな開きがある場合、各組合の使用者に対する交渉力、すなわちその団結行動の持つ影響力に大小の差異が生ずるのは当然であり、この点を直視するならば、使用者が各組合との団体交渉においてその交渉相手の持つ現実の交渉力に対応してその態度を決することを是認しなければならないものであつて、団結力の小さい組合が団体交渉において使用者側の力に押し切られることがあつたとしても、そのこと自体に法的な問題が生ずるものではない。すなわち、同一企業内に圧倒的多数の従業員を組合員として擁する多数派組合と、極く少数の従業員を組合員として擁するにすぎない少数派組合とが併存する場合、その企業における勤務体制に関しては、一般に、職場全体を通じて均等な労働条件による統一的な勤務体制がとられることが望ましいものであることはいうまでもないところであり、使用者はいずれの組合とも十分協議を尽すべきであるが、事実として、多数派組合の交渉力の方が使用者の意思決定に大きな影響力をもたらすことは否定できないところであるから、使用者としてかかる労使間の問題を処理するにあたつて、いきおい右多数派組合との交渉及びその結果に重点を置くようになるのは自然のことというべきであり、このような使用者の態度を一概に不当とすることはできない。労働条件の適用について圧倒的多数の労働者の団結権及びその意思を重視する姿勢は労組法の規定にもこれを窺うことができるのである(同法一七条参照)。したがつて、例えば、使用者において複数の併存組合に対し、ほぼ同一時期に同一内容の労働条件について提示を行い、それぞれに団体交渉を行つた結果、従業員の圧倒的多数を擁する組合との間に一定の条件で合意が成立するに至つたが、少数派組合との間では意見の対立点がなお大きいという場合に、使用者が、右多数派組合との間で合意に達した労働条件で少数派組合とも妥結しようとするのは自然の成り行きというべきであつて、少数派組合に対し右条件を受諾するよう求め、これをもつて譲歩の限度とする強い態度を示したとしても、そのことから直ちに使用者の交渉態度に非難すべきものがあるとすることはできない。そして、このような場合に、労使双方があくまで自己の条件に固執したため労働協約が締結されず、これにより少数派組合の組合員が協約の成立を前提としてとらるべき措置の対象から除外され、このことが同組合員に経済的不利益の結果をもたらし、ひいて組合員の減少の原因となり、組合内部の動揺やその団結力の低下を招くに至つたとしても、それは、当該組合自身の意思決定に基づく結果にすぎず、ひつきよう、組合幹部の指導方針ないし状況判断の誤りに帰すべき問題である。このような場合に、使用者において、先に多数派組合と妥結した線以上の譲歩をしないことが、少数派組合の主張や従来の運動路線からみて妥結拒否の回答をもたらし、協約不締結の状態が続くことにより、その所属組合員に経済的な打撃を与え、ひいては当該組合内部の動揺や組合員の退職、脱退による組織の弱体化が生ずるに至るであろうことを予測することは極めて容易なことであるとしても、そうであるからといつて、使用者が少数派組合に対し譲歩をしないことが、同組合の弱体化の計算ないし企図に基づくものであると短絡的な推断をすることの許されないものであることはいうまでもない。そうでなければ、使用者は少数派組合の要求に譲歩しない限り一般的に不当労働行為意思が推定されているという不当な結果となるであろう。

以上のように、複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなさるべきではない。

したがつて、以上の諸点を十分考慮に入れたうえで不当労働行為の成否を判定しなければならないものであるが、団体交渉の場面においてみるならば、合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であつても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となつて行われた行為があり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法七条三号の不当労働行為が成立するものと解するのが相当である。そして、右のような不当労働行為の成否を判断するにあたつては、単に、団体交渉において提示された妥結条件の内容やその条件と交渉事項との関連性、ないしその条件に固執することの合理性についてのみ検討するのではなく、当該団体交渉事項がどのようないきさつで発生したものかその原因及び背景事情、ないしこれが当該労使関係において持つ意味、右交渉事項に係る問題が発生したのちにこれをめぐつて双方がとつてきた態度等の一切の事情を総合勘案して、当該団体交渉における使用者の態度につき不当労働行為意思の有無を判定しなければならない。

四そこで、以上の見地に立つて、上告人会社が、支部において上告人会社の提示する交替制勤務及び計画残業方式に服することに合意しないことのゆえをもつて支部所属組合員に対しては一切の残業を命じないとしていることについての不当労働行為の成否について考えるに、原審の適法に確定した事実関係によれば、以下の諸点を指摘することができる。

1(一)  上告人会社が合併後の旧プリンスの製造部門に導入した前記交替制と計画残業とは、従来から上告人会社の他の工場において採用してきたものであり、所与の生産設備と労働力を十二分に活用して生産効率を挙げることを目的として考え出された勤務体制であつて、両者は密接な関連性を有するものである。そして、計画残業とは、毎月の生産計画達成に必要とされる従業員一人あたりの月間残業時間を、従来の残業就労率を見込んで職場単位に算出し、これを就労日に割り振るなどして、従業員を計画的に日々必要時間数だけ残業に服させようとするものであるから、製造部門、特にベルトコンベアー作業に従事する従業員中に計画残業に服さない者が出た場合には、他の従業員を補充して作業にあたらせなければならず、この補充体制を整えるためにはかなりの手数を要し、したがつて、計画残業に服することの不確実な従業員を右作業に組み入れるときには、作業の円滑な遂行が阻害されることになる。

(二)  そこで、上告人会社は、昭和四三年一月二六日の団体交渉において、支部に対し、製造部門においては、上告人会社が日産労組との労働協約に基づき実施しているのと同一の労働条件のもとに支部所属組合員が計画残業に服することについて合意することを強く主張し、支部が右会社の提案に同意しない限りその組合員に対する残業組入れを全面的に拒否する旨の態度を示したものであるが、このような上告人会社の主張については、合理的理由があるものといわざるをえない。けだし、支部が計画残業に同意する旨を表明しない状況のもとでは、個々の組合員が計画残業に服するか否か予測し難いにもかかわらずその全員を計画残業に組み入れなければならず(個々の組合員によつて異なる取扱いをすれば、差別取扱い、組合切りくずしの非難を受けることになろう。)、この場合に、組合員が右計画残業に非協力の態度を取れば、その補充体制を整えるために相当の手数を要するとともに、あらかじめこれに備えるとすれば上告人会社に余分の負担を与えることになると考えられるからである。また、前記交替制及び計画残業は、上告人会社が合併前からその工場で採用してきた制度であり、合併後これを旧プリンスの工場に導入するについて圧倒的多数の労働者を組織する組合の同意を得られたものであつて、かつ、その制度自体の合理性を否定することができないものであるうえに、同一の事業場においては全従業員が統一的な勤務体制により就労することによつて効率的な作業運営が図られるものであることに鑑みると、上告人会社が前記のような態度で支部との交渉に臨んだことについては、この限りにおいてこれを不当として非難することはできないものと考えられる。

(三)  しかしながら、右団体交渉における支部に対する上告人会社の要求が一見合理的かつ正当性を承認しうるような面を備えているとしても、その真の決定的動機が少数派組合である支部に対する団結権否認ないしその弱体化にあり、本件の残業問題に関する団体交渉が右の意図に基づく既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められるときは、これに対する会社の行為はこれを全体的にみて支配介入にあたるものといわなければならない。

2(一)  ところで、上告人会社と旧プリンスとの合併を前にして、旧プリンスにおける唯一の労働組合であつた支部は、右合併及び合併後の日産労組との組織統一等をめぐつて態度決定を迫られたが、支部執行部及びこれを支持する少数の組合員は旧プリンスにおける既得の労働条件が低下するおそれがあるなどとして合併に対し消極的であつたところ、結局、旧プリンス従業員約七八〇〇名中約七五〇〇名を擁していた支部の組合員のうち後記一五二名を除くその余の組合員が、支部を全金から脱退させ、合併後は日産労組に統合することを予定して、支部の名称をプリンス自動車工業労働組合(以下「プリンス自工組合」という。)と改称するという動きに出た結果、全金に所属する支部は僅か一五二名の組合員を擁する少数派組合となつてしまつたものである。

(二)  上告人会社及び合併前の旧プリンスは、右のように、支部が会社合併及び労働組合の組織統一等をめぐる組合内部の意見の対立により大多数の組合員が全金を脱退してプリンス自工組合を結成し、支部は僅か一五二名の少数派組合となつた一連の過程において、合併を成功させようとする立場から、おのずから日産労組やこれに同調する支部内の動きに対して好意的であり、前記多数派による全金からの支部の脱退及び組合の名称をプリンス自工組合と改称した旨の通告を受けた時点において全金に所属する支部は消滅したものとする態度をとり、前記残存組合員らによる団体交渉の申入れを拒否し、合併後の労働条件についてプリンス自工組合とのみ協定を結び、合併後も右と同様の態度をとつた。そして、この間に会社側がとつた措置ないし態度については、全金や支部は、(1) 旧プリンスが、支部の組合員らに対する日産労組の働きかけにつき、側面援助を行つているものであるとして、(2) また、前記多数派による全金脱退後、残存組合員からなる支部に対して団体交渉を拒否しているとして、それぞれ都労委に不当労働行為の救済申立を行い、さらに、(3) 合併後に上告人会社が行つた支部所属組合員六名の配置転換につき、労組法七条一号の不当労働行為であるとして都労委に救済申立をする等の対抗措置をとり、これらに対し、次のような救済命令が発せられた経緯がある。すなわち、右(1)の申立に対しては、昭和四一年七月二六日付で、(ア) 旧プリンスは、工場長、課長をして支部の組合員に対して全金の支持を弱めるような言動をなさしめたり、また、係長、班長が係員に対し就業時間中に同旨の説得活動を行うことを放置してはならない、(イ) 旧プリンスは、全金の組合員以外の者が全金の支持を弱めるような活動をするにあたつて、会社の会議室や食堂を利用させるなどの特別の便宜を供与してはならない、との一部救済命令が発せられ、同命令は確定した。また、(2)の申立に対しては、同年七月一二日付で、旧プリンスは支部からの申入れに係る団体交渉に応じなければならない、との救済命令が発せられ、これに対する旧プリンスからの再審査申立に対しても、同年一一月二六日付で、合併後の上告人会社を名宛人として、右初審命令を維持する命令が発せられ、同命令は確定した。さらに、(3)の申立に対しては、昭和四六年四月六日付で、六名の原職ないし原職相当職への復帰を内容とする救済命令が発せられ、これについては、再審査手続の段階で原職復帰の線に沿う和解で解決した。

3(一)  ところで、上告人会社は、昭和四二年二月から前記交替制と計画残業を旧プリンスの製造部門に導入したものであるが、かかる労働条件の変更を伴う勤務体制を事業場に導入するについて、日産労組とのみ協議してその導入を決定し、支部とはなんらの協議も行うことなく、一方的に支部所属組合員を昼間勤務にのみ配置し、かつ、右導入以後同組合員につき一切の残業への組入れをしなかつた。このことに正当な理由があつたのかどうかを検討する必要がある。

前記のとおり、支部に対する団体交渉の拒否について、これを不当労働行為であるとして団体交渉に応ずべきことを命ずる初審命令を維持した再審査命令があつたのは昭和四一年一一月二六日付であり、支部は、右救済命令の確定と前後して上告人会社に団体交渉の申入れをし、昭和四二年一月以降に団体交渉の日時、場所、出席者等、団体交渉のルールの設定につき予備折衝を経たのち、同年三月二二日を第一回として正式の団体交渉を持つに至つた。右の経過からすると、昭和四二年一月下旬の段階で、上告人会社が支部を独立の労働組合と認めてこれに対し右交替制及び計画残業の導入につき会社側の意向を提案すること自体に格別の困難があつたとはみられない。

(二)  確かに、右勤務体制は上告人会社が合併前からその工場で採用してきた制度であり、合併後これを旧プリンスの工場にも導入する方針については、既に合併前にプリンス自工組合との間に基本協定が締結されていたことである(ちなみに、合併前の旧プリンスの製造部門においても、二直二交替制ないし二直三交替制の勤務体制により深夜勤務が実施されていた。ただし、右の夜間勤務者に対してはほとんど残業を課すことはなく、昼間勤務者に対しては多少の残業を課すことがあつたが、残業を命ずるにあたつては、現場上司が各部下に個別的に残業に服するかどうかを確かめ、残業応諾者のみで不足するときには他の部署から応援を求めるなどして所要人員を確保し、これらの者に対して業務命令を出すという方法の、いわゆるプリンス方式による残業が行われていた。)。また、支部としても、会社の合併をめぐり労働組合としての態度決定をするについては、当然上告人会社が従来からその工場で実施してきた前記交替制及び計画残業の実情を調査していたものと考えられるのであり、合併後これが旧プリンスの工場に導入されたことについても、全く未知の制度が突然導入されたというのとは異なり、むしろ合併後その導入にいかに対応すべきかは既定の問題であつたといいうる。そして、支部は、上告人会社が合併後旧プリンスの工場に日産型交替制及び計画残業を導入する前から深夜勤務反対等の旨を情宣活動等において表明し、また、右導入後支部所属組合員が計画残業に組み入れられなかつたことについて、当初これを差別的取扱いとして抗議したり、是正を要求したりすることもなかつた。そればかりか、支部は、昭和四二年三月から六月ころまでの間、春闘やメーデー参加等に際して、「会社の残業政策を粉砕しよう」、「労働条件を合併前に戻せ」、「深夜勤務の強化、夜勤の早出、隔週夜勤反対」、「残業、公出……の強制反対」、「強制残業、深夜勤務はすぐやめよ」、「残業は自由意思でやらせろ」等の記載のあるビラを配布していたのであつて、このような事実からすると、支部は、上告人会社の採用している右勤務体制を知つたうえで、計画残業を強制残業であるとしてあえてこれに反対しているものと会社側が受け取つたとしても当然とみられる活動を展開していたのである。また、その後の団体交渉の経過をみても、支部は日産労組所属の組合員と同一の労働条件の下での交替制及び計画残業に服することを拒否し続けたことが明らかであり、その立場は会社側の説得の余地に乏しかつたことも否定することはできない。

(三)  しかし、そうであるからといつて、支部の側に団体交渉の姿勢がなかつたといえない以上、右のような事情をもつて、上告人会社が前記交替制及び計画残業を旧プリンスの製造部門に導入するについて支部となんらの協議も行わず、かつ、右導入以後支部所属組合員につき一切の残業から排除したことを正当ならしめる事由と解することはできない。ことがらは、労働条件の中でも基本的な事項である勤務体制及び労働時間をどのように協定するかという問題である。現に企業内に日産労組とは別個独立の労働組合が存在していることを認めざるをえない状況にありながら、使用者が右労働条件について労働組合の一方とのみ協議し、他方の組合にはなんらの提案すら行わないというのは、後者の組合についてはその存在を無視して企業運営を図ろうとする意図のあらわれとみられてもやむをえないところである。これは、同年六月の六回目の支部との団体交渉において支部から初めて会社の支部所属組合員に対する残業に関する措置の問題が提起されたのち、同年中において会社側の示した交渉態度が、その後示した態度とは裏腹に、支部所属組合員を残業から除外しているのは会社の方針ではなく、現場職制の同組合員に対する不信感に由来するものであると述べるなど、専ら抽象的、水掛け論的論議に終始して、交替制及び計画残業の内容やその必要性、妥当性につきそれなりの説明をして支部の説得を試み、その同意をとりつけるための努力を払つた形跡がみられないという点にも窺われるところであり、以上のところからすると、上告人会社は、支部が前記のような情宣活動等を行つていたことをいわば逆手に取つて、誠意をもつて交渉する態度を示さなかつたものとみられるのである。そして、上告人会社による右勤務体制及び計画残業についての具体的説明並びに支部がこの勤務体制に服することに同意しない限り残業に組み入れることができない旨の態度の表明は、この問題について支部が都労委に斡旋申請をし、その斡旋員の指示によつて開かれた昭和四三年一月二六日の団体交渉の際に初めてされたのである。

(四)  さらに、本件初審命令後の団体交渉においても、上告人会社は、支部所属組合員を残業に就かせない状態を継続しつつ、日産労組所属の組合員と同一の勤務体制に服することを残業組入れの前提条件としたものであつて、その交渉態度に特段の変化があつたとはみられない。

4(一)  間接部門においては、遅番勤務がなく、したがつて同部門における残業を含む作業割当ては前記交替制に対する支部としての賛否の問題とはかかわりがないにもかかわらず、上告人会社は同部門に勤務する支部所属組合員に対しても昭和四二年二月以降一切残業を命じていない。そして、上告人会社が間接部門に勤務する支部所属組合員に対し一切残業を命じなくなつた理由として本件救済申立前に支部との団体交渉において主張したところは、要するに支部所属組合員に対する職制の信頼がないからであろうというようなものでしかない。

(二)  ところで、間接部門においては、交替制や計画残業を実施しているわけではなく、各職制が必要に応じて残業をさせるという方式が採られており、支部も三六協定に基づく残業には応ずる旨を表明していたのであるから(なお、上告人会社における圧倒的多数派組合である日産労組との間に三六協定が締結されていたこと及び上告人会社の就業規則に業務上必要がある場合に会社が残業を命じうる旨の定めがあることは、記録上明らかである。)、上告人会社が同部門の支部所属組合員に残業を命じるについては同支部と更に特段の協定、協約を締結しなければならないというものではなく、上告人会社が支部所属組合員に対して一方的に残業を命ずることができたのである。もとより、一般的にいえば従業員に残業を命ずることが会社の義務であるわけではない。しかし、残業手当が従業員の賃金に対して相当の比率を占めているという労働事情のもとにおいては、長期間継続して残業を命ぜられないことは従業員にとつて経済的に大きな打撃となるものであるから、同一部門における併存組合のいずれの組合員に対しても残業を命ずることができる場合において、一方の組合員に対しては一切残業を命じないという取扱上の差異を設けるについては、そうすることに合理的な理由が肯定されない限り、その取扱いは一方の組合員であるがゆえの差別的不利益取扱いであるといわなければならず、同時に、それは、同組合員を経済的に圧迫することにより組合内部の動揺や組合員の脱退等による組織の弱体化を図るものとして、その所属組合に対する支配介入を構成するものというべきである。

そして、支部が、製造部門において交替制及び計画残業に反対の態度をとり、日産労組所属の組合員と同一の労働条件のもとでの右勤務体制及び残業に服することを拒否しているからといつて、間接部門における支部所属の組合員についてまで一切残業を命じないとするのは、これを製造部門に関する残業の条件について支部との団体交渉が始まつた以後は、これとの交渉を有利にするための取引の手段としたものとしても、右交渉の目的との間の合理的関連性を欠くものといわざるをえず、もとより右団体交渉の以前においては、これを正当としうるなんらの合理的理由も見出すことはできない。

(三)  要するに、間接部門におけるこの問題に関する会社の態度を通してみるならば、上告人会社には、残業に関し支部所属の組合員をその組合員であるというだけの理由で日産労組所属の組合員と差別して取り扱い、支部所属組合員を経済的に不利益な状態に置くことによりその組織の動揺ないし弱体化を図つたものとみざるをえないのである。

そして、支部は、製造部門と間接部門の二つの組織からなるわけのものではなく、統一組織体であることを考えれば、上告人会社が支部所属組合員に対してとつた残業問題に関する措置の真の意図が製造部門と間接部門とで異なつていたものと考えるのは不自然さを免れない。

5そこで、右の4の点に前記2、3の点を合わせ考えるならば、本件残業問題に関し、上告人会社が支部所属組合員に対し残業を一切命じないとする既成事実のうえで支部との団体交渉において誠意をもつて交渉せず、支部との間に残業に関する協定が成立しないことを理由として支部所属組合員に依然残業を命じないとしていることの主たる動機・原因は、同組合員を長期間経済的に不利益を伴う状態に置くことにより組織の動揺や弱体化を生ぜしめんとの意図に基づくものであつたと推断されてもやむをえないものである。

五したがつて、以上と同旨の見地に立ち、団体交渉の結果として措置を継続しているかにみえる製造部門における支部所属組合員の残業組み入れ拒否につき、労組法七条三号の不当労働行為が成立するものとした原審の判断は、これを是認するに足り、原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。

同第四点及び第五点の一について

所論は、要するに、本件救済命令における「上告人会社は、支部所属組合員に対して時間外勤務(休日勤務を含む)を命ずるにあたつて同支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取り扱つてはならない。」との主文は、抽象的にすぎて不明確であり、また、これが支部所属組合員に対しては無条件の自由意思による残業を命ずべきものとしたものとすると、日産労組所属の組合員との間に逆差別をもたらすものであるにもかかわらず、原判決がかかる救済命令を適法としたのは、法令の解釈、適用を誤り、理由不備、理由齟齬の違法を犯したものである、というのである。

思うに、労働委員会は、当該事件における使用者の行為が労組法七条の禁止する不当労働行為に該当するものと認めた場合には、これによつて生じた侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の回復、確保を図るために必要かつ適切と考えられる是正措置を決定し、これを命ずる権限を有するものであつて、かかる救済命令の内容(主文)の決定については、労働委員会に広い裁量権が認められているものといわなければならない。したがつて、裁判所は、労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われている場合には、労働委員会の右裁量権を尊重し、その行使が右の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であつて濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないのである(最高裁昭和四五年(行ツ)第六〇、第六一号同五二年二月二三日大法廷判決・民集三一巻一号九三頁参照)。

これを本件についてみるに、本件において労組法七条三号の不当労働行為を構成するとみるべきものは、前記のとおり、次のような経緯における上告人会社の一連の行為である。すなわち、上告人会社は、旧プリンスとの合併後旧プリンスの工場にも日産型交替制及び計画残業方式を導入したものであるが、その導入にあたり併存組合の一つである日産労組とのみ協議し、支部に対してはなんらの提案も行わずに一方的にその組合員を昼間勤務にのみ配置し、かつ、一切の残業に組み入れないという措置をとつた。これは、労働条件の決定等に関する交渉相手として支部の存在を無視し、その組合員を差別的に取り扱う意図の窺われるもので、支部の団結権に対する侵害行為である。上告人会社は、その後支部からの要求により右の残業に関する会社の措置が団体交渉事項となつたのちも、右残業問題について解決するための誠実な団体交渉を行わずに最初の措置を維持継続してこれを既成事実と化し、結局、会社が残業の条件とする交替制勤務及び計画残業についての協定が支部との間に成立しない限りその組合員に残業を命じないとの態度を固執して右既成事実を維持継続した。これは、団体交渉における膠着状態を継続することによつて支部所属の組合員を経済的に圧迫し、ひいて支部内部の動揺あるいは支部の弱体化を生ぜしめんとの意図が主たる動機・原因となつているものと推断させる行為である。

右のとおり、本件不当労働行為は、上告人会社が旧プリンスの製造部門に日産型交替制と計画残業方式とを導入した機会に始まるものであり、それ以前においては、旧プリンスの製造部門においては右と異なる勤務体制及びプリンス方式による残業が実施されていたのである。したがつて、上告人会社が右のような旧プリンスにおける労働条件を変更するについて支部の存在を無視し、これに対しなんらの提案も行わないで、一方的にその組合員を一切残業に組み入れないとの措置をとり、このようにして形成した事実を前提として支部との団体交渉に臨むという会社の一連の行為が不当労働行為とされた以上、これに対する原状回復措置として、支部との関係においては、その組合員を一切残業に組み入れないとの措置をとる以前の状態に戻すことを命ずる趣旨で、残業について支部所属組合員であるがゆえの差別をしてはならない旨を命じたとしても、これは労働委員会に認められた裁量権の限界を超えたものということはできない。そして、本件救済命令の主文は、正に右の趣旨を命じているにすぎないものと解せられるから、これをもつて抽象的、不明確であるとしたり、逆差別を命ずるものであるとするのはあたらない。

ところで、本件救済命令に従うと、支部が前記交替制勤務又は計画残業について同意しない限り、これとの間に協定が締結されず、かくして会社は、大多数の従業員が交替制及び計画残業に服しているにもかかわらず支部所属の組合員については昼間勤務にのみ配置した状態でプリンス方式による残業を命じなければならないこととなつて不合理であるとする見解があるかもしれない。しかし、そのような非難はあたらないと考えられる。すなわち、本件救済命令は、先にも述べたとおり、残業について支部所属組合員であるがゆえの差別をしてはならない旨を命じたものであつて、その趣旨によれば、要するに、団体交渉の過程において残業について右の差別を行わない限り、その組合員を、先に日産労組との間で協議を経て実施している交替制及び計画残業に組み込むことについて更に支部と団体交渉を重ねることとするか、これをも振出しに戻して新たな勤務体制及び残業方式を模索するかは、上告人会社が自由に決しうることである。仮に、支部所属組合員を右交替制及び計画残業に組み込む方向で更に支部と団体交渉することとした場合に、製造部門において残業を交替制勤務と切り離して取り扱うこと及び計画残業に対する支部の不協力が現実に上告人会社の業務遂行に支障を生ぜしめるものであり、支部との団体交渉において、誠意を尽くして説得しても支部が右勤務体制に服することをがえんじようとしないのであれば、かかる現実的障害の発生に対する会社の対抗措置として、以後支部所属組合員を残業から排除すべきことを提案し、これに対する支部の意思決定を求め、そのうえでこれに応じた措置をとることは、なんら非難さるべきことではない。要するに、上告人会社が、本件残業問題に関し、支部及びその所属組合員を差別した以前の労働条件に事実上回復したうえで、支部との団体交渉を誠実に尽くすならば、会社がその要求である勤務体制及び計画残業方式を強く主張することにはそれなりの合理性が認められることは先にみたとおりである。そして、支部がその団体交渉において結局自己の要求を通すことができないこととなつたとしても、それは団結力、交渉力の問題であるのにすぎない。

原判決の説くところも結局以上と同旨をいうものと解せられ、原判決に所論の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。

同第五点の二について

間接部門の支部所属組合員に対し、残業を命じなかつた上告人会社の行為が労組法七条三号の不当労働行為にあたるものであることは、先に上告理由第二点及び第三点に関して言及したとおりである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第五点の三について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件救済命令存続の必要性が失われたとはいえないとした原審の判断は、正当として是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、不当労働行為の成否に関する上告理由第二点、第三点及び第五点の二につき裁判官木戸口久治の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官木戸口久治の反対意見は、次のとおりである。

私は、本件救済申立事件における不当労働行為の成否については多数意見と見解を異にし、本件において上告人会社が支部所属組合員に残業を命じなかつたことについて不当労働行為は成立しないと考える。

一  私も、次の点については多数意見と完全に見解を同じくするものである。

1  同一企業内に複数の労働組合が併存する場合に、一方の組合は、使用者との間に一定の労働条件のもとで残業することについて協約を締結したが、他方の組合は、より有利な労働条件を主張し、右と同一の労働条件のもとで残業をすることについて反対の態度をとつたため、残業に関して協約締結に至らず、その結果、右後者の組合員が使用者から残業を命ぜられず、前者の組合員との間に残業に関し取扱に差異を生ずることになつたとしても、それは、ひつきよう、使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎないものというべきであつて、残業について両組合員間に右のような取扱上の差異を生ずるような措置をとつた会社の行為につき不当労働行為の問題は生じないものといわなければならない。

2  上告人会社が支部との団体交渉において、支部に対し、製造部門においては上告人会社が日産労組との労働協約に基づき実施しているのと同一の労働条件のもとに支部所属組合員が計画残業に服することについて合意することを強く主張し、支部が右会社の提案に同意しない限りその組合員に対する残業組入れを全面的に拒否する旨の態度を示したことについては、合理的な理由がある。

二  ところで、多数意見が本件における残業に関する上告人会社の措置につき不当労働行為の成立を認めたのは、団体交渉における支部に対する上告人会社の要求が合理的かつ正当性を承認しうる面を備えているとしても、その真の決定的動機が少数派組合である支部に対する団結権否認ないしその弱体化にあり、本件の残業問題に関する団体交渉が右の意図に基づく既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる、と評価したことによるものである。

しかし、私は、多数意見の右の評価については到底賛成することができない。その理由は、以下のとおりである。

三  まず、多数意見は、上告人会社が合併後旧プリンスの製造部門に日産型交替制と計画残業の勤務体制を導入するについて、当初日産労組とのみ協議してその導入を決定し、支部とはなんらの協議も行うことなく、一方的に支部所属組合員を早番勤務(昼間勤務)にのみ配置し、かつ、右導入以後同組合員につき一切の残業への組入れをしなかつたことについて、正当な理由があつたとは認められないとし、上告人会社の右のような態度は支部の存在を無視して企業の運営を図ろうとする意図のあらわれとみられてもやむをえないところである、としている。

しかし、このような多数意見の見方は、右勤務体制に対する支部の反対の意思表明の事実を過小に評価しているものであつて、同調することができない。

1  合併前旧プリンスにおける唯一の労働組合であつた支部においては、会社の合併及び合併後の日産労組との組織統一等をめぐつて態度決定を迫られ、支部執行部及びこれを支持する少数の組合員は合併により既得の労働条件が低下するおそれがあるなどとして合併に対し消極的であつたのに対し、むしろ圧倒的多数の組合員は合併に積極的であり、結局、約九八パーセントの組合員は支部の属していた全金から組合として脱退する決議を行い、合併後は日産労組に統合することを予定して、組合の名称をプリンス自工組合とした。そして、プリンス自工組合は、旧プリンスとの間において合併後は上告人会社の就業規則によることについて基本協定を締結した。一方、右の過程において、全金に所属する支部は依然存続するものであるとして、一五二名の組合員名を旧プリンスに通告した。これが現在の支部である。

支部が日産型交替制及び計画残業について容易に妥協を示さないのは、会社の合併をめぐり支部内部に生じた組合員間の意見の対立を経て、少数派組合として残存することとなつたという基本的立場と関係しているものであることが右によつて明らかであると考えられる。

2  すなわち、支部は、上告人会社が合併後旧プリンスの工場に日産型交替制及び計画残業を導入する前から深夜勤務反対等の旨を情宣活動等において表明し、また、右導入後支部所属組合員が計画残業に組み入れられなかつたことについて、当初これを差別的取扱として抗議したり、是正を要求したりすることもなかつた。そればかりか、支部は、昭和四二年三月から六月ころまでの間、春闘やメーデー参加等に際して、「会社の残業政策を粉砕しよう」、「労働条件を合併前に戻せ」、「深夜勤務の強化、夜勤の早出、隔週夜勤反対」、「残業、公出……の強制反対」、「強制残業、深夜勤務はすぐやめよ」、「残業は自由意思でやらせろ」等の記載のあるビラを配布していたのであつて、このような事実からすると、支部は、上告人会社の採用している右勤務体制を知つたうえで、計画残業を強制残業であるとして、あえてこれに反対していたものであることが明らかであるといわなければならない。

3  このように、支部は、合併後旧プリンスの製造部門に日産型交替制及び計画残業が導入される前から情宣活動等を通じて右勤務体制に反対の意思を表明してきたものであり、その態度は明確かつ強固なものであつた。このような場合に、上告人会社があえて支部に対し右勤務体制の導入・実施について団体交渉の申入れをしたとしても、右交渉において支部の同意を得ることは到底不可能であつたことは客観的にも明らかであつたといわなければならず、上告人会社が日産労組の同意を得たのみで日産型交替制及び計画残業を旧プリンスの製造部門に導入したことはやむをえなかつたものであり、これをもつて支部を無視する処置であつたとして上告人会社を非難することは当たらない。

4  そして、右のような日産型交替制及び計画残業の導入に伴う措置として、上告人会社が製造部門における支部所属の組合員を早番勤務にのみ配置し、かつ、これに対し残業を命じない措置をとつたのは、支部が日産型交替制のもとでの遅番勤務(夜間勤務)に反対し、計画残業は強制残業であるとしてこれに反対していたため、上告人会社が、このような支部の反対がある以上その所属組合員を右交替制のもとでの遅番勤務に組み入れることができないと考え、また、計画残業に非協力の態度を表明している支部所属の組合員をこれに組み入れるならば右計画業務の遂行に支障を生ずるおそれがあることを懸念し、他方早番勤務にしか従事しない者を残業に従事させることは、日産労組所属の組合員が右交替制勤務体制に服し、遅番勤務に引き続く残業に従事していることと均衡を失することになるとの考慮によるものと認められるのであつて、このような上告人会社の判断になんら不当、不合理な点はなく、むしろ当時の支部の態度からみれば当然のことというべきである。結局、上告人会社が日産型交替制及び計画残業の勤務体制実施当初から支部所属組合員を残業に組み入れなかつたのは、支部がその自主的な判断に基づき自らその組合の方針として上告人会社の勤務体制に反対することを選択したことによる結果に外ならないというべきであるから、これについて上告人会社に責められるべきところはなく、上告人会社のとつた措置につき不当労働行為が成立する余地はないといわなければならない。

四  次に、多数意見は、本件残業問題について支部との団体交渉が行われた昭和四二年六月以降における上告人会社の交渉態度が不誠実なものであつたと評価している。しかし、上告人会社の交渉態度をもつて不誠実であつたとする多数意見には、同調することができない。

1  上告人会社と支部は昭和四二年三月二二日を第一回として正式な団体交渉を持つに至つたが、支部が残業問題に関し上告人会社に団体交渉を申し入れたのは同年六月以降である。そして同年六月三日から一一月二八日までの数回の団体交渉において本件残業問題について交渉が行われたが、上告人会社は、支部が計画残業を強制残業であるとしてこれに反対している限り信用も信頼関係も生まれないと主張し、支部が右のような態度を改めることが残業問題の交渉についての前提条件であることを示し、日産労組所属の組合員と同一の労働条件のもとでの交替制及び計画残業の勤務体制に支部所属組合員も服することを求めたのに対し、支部は、残業に絶対反対とはいつていない、三六協定に基づく残業には以前から協力してきた、ただ上告人会社の主張する計画残業は強制残業であるからこれに反対だといつているのだと主張して応酬し、同年一二月一五日には、逆に支部側から、夜間勤務に応ずる条件として、週五日制とすること、昼間よりベルトコンベアのスピードを落とすこと、夜勤手当を増額することなどを要求し、同月二七日都労委に本件残業問題をめぐる紛争についての斡旋を申請したのである。

2  以上のような交渉の経緯からすると、そこでいう計画残業というのは、日産型交替制と組み合わされた残業を指すものであることはいうまでもないところであるから、上告人会社と支部との間においては、支部が日産型交替制及びこれと組み合わされた計画残業を受け入れるかどうかがいわば最終的な攻防の目標として、本件残業問題に関する団体交渉が行われていたことが明らかであつて、上告人会社において支部に対し日産型交替制及び計画残業を受け入れることが残業を命ずる条件であるという主張をしたことが明示的でなかつたとしても、それが上告人会社の態度であることは支部も十分了知していたところというべきである。そして、支部の側において右日産型交替制及び計画残業を受け入れる意思がみられない以上(支部が提案した前記のような夜間勤務に応ずる条件が上告人会社によつて拒否されることは常識的に考えて明らかである。)、団体交渉が前記のような応酬で推移したのはやむをえないところであつて、この間の上告人会社の交渉態度が不誠実であつたとするのは当たらない。

3  支部の前記条件の提示を受け、都労委の斡旋員の勧告により行われた昭和四三年一月二六日の団体交渉において、上告人会社は、支部に対し、日産労組との労働協約に基づき実施しているのと同一の労働条件のもとに支部所属組合員が計画残業に服することについて合意することを強く主張し、支部が右会社の提案に同意しない限りその組合員に対する残業組入れを全面的に拒否する旨の態度を示したのに対しても、支部は、あくまで右会社の提案する条件のもとでの夜間勤務には応じられないとし、その立場は会社側の説得の余地に乏しく、結局右団体交渉も決裂に終わつた。

さらに、本件初審命令が発せられた後の昭和四六年六月一八日から翌四七年四月一八日までの間にも、八回にわたり本件残業問題に関する団体交渉が行われ、上告人会社は、支部に対し、重ねて日産労組所属の組合員と同様の労働条件のもとに支部所属組合員も日産型交替制及び計画残業に服するよう申し入れた。しかし、支部は、日産型交替制に伴う遅番勤務に服することを認めるか否かは上告人会社の生産計画、設備計画等一切の関連要素を検討し、これらを煮つめたうえで結論を出すべきであるなどとして、遅番勤務反対の従来の立場を主張したため、結局合意をみるに至らなかつたものである。

4  これら数次にわたる団体交渉において上告人会社が堅持してきた立場、すなわち、日産型交替制と計画残業の勤務体制を支部に対しても要求し、右勤務体制に服することについて合意しない限り支部所属組合員に対する残業組入れを全面的に拒否するという態度に終結した上告人会社の立場についていえば、日産型交替制と計画残業の勤務体制は、既に合併前から上告人会社において日産労組との労働協約に基づきこれが一体のものとして実施されてきたものであり、合併後の旧プリンスの事業場においても、旧プリンス従業員全体の約九八パーセントの労働者をもつて組織するプリンス自工組合及びこれを包摂することになつた日産労組との合意に基づき右勤務体制及びその体制のもとでの計画残業が導入され、実施されてきたものである以上、本件におけるように旧プリンス従業員全体の二パーセントにも満たない労働者で組織する支部と前記圧倒的多数の労働者で組織する日産労組とが併存している状況のもとにおいては、使用者としては、勤務体制のように一つの事業場において全従業員に共通して適用することが労務管理上必要な事項については、多数労働者の意思を尊重する意味でも、両組合の交渉力の関係からいつても、前記のような組織力を持つ多数派組合である日産労組との交渉又はその交渉結果に重点を置いて対処せざるをえないのが実情であつて、上告人会社が同一事業場に二様の勤務体制をとることは不可能であるとして、支部との団体交渉において、支部に対し、先に圧倒的多数の従業員を擁する日産労組との間で合意をみたのと同一の勤務体制及びこれに組み合わせて一体として実施している計画残業に支部が服することを強く主張し、これに固執したとしても、これをもつてなんら不当な交渉態度であると非難することはできないものといわなければならない。

5  一方、支部は、前記のように、旧プリンスの事業場に右勤務体制が導入される以前から情宣活動等を通じて、夜間勤務には反対である意思を表明し、かつ、計画残業は強制残業であるとしてこれに反対していたのであり、また、長期にわたる団体交渉の過程を通じても、日産労組と同一の労働条件のもとでは右勤務体制に服することはできないとして、上告人会社の提案する残業の条件を拒否し続けてきたものであつて、このような支部の態度からすれば、前記情宣活動以来支部において表明してきたものが単なる建て前やスローガンとしての反対にすぎなかつたものとは到底いえないところである。そして、支部は、その主観的意図はともかく、客観的にみれば、旧プリンスの従業員の単位でみてもわずか全体の二パーセントにも満たない労働者しか擁していない少数派組合であるにもかかわらず、約九八パーセントの労働者を擁するプリンス自工組合及びこれを包摂した日産労組が協約を結んだ勤務体制に反対し、これよりもより有利な労働条件でなければ右勤務体制及びそのもとでの計画残業に服さないと主張し、かつ、その立場で上告人会社の提案する残業の条件を拒否したものであつて、このような客観的な情勢をわきまえない支部の立場に譲歩しなかつた上告人会社の団体交渉の態度に不当な点があるものとは考えられない。

6  以上のような点に鑑みると、上告人会社が旧プリンスの製造部門に日産型交替制と計画残業とを導入・実施することになつた昭和四二年二月一日以降、支部所属の組合員に残業を命じない措置をとり、これを継続してきたのは、結局は支部が日産労組が受け入れたのと同一の労働条件のもとでの残業に服することを拒否し続けたことにより上告人会社と支部との間に残業問題に関する労働協約が締結されるに至らなかつたことが唯一の原因であるというべきであつて、その結果として、支部所属の組合員が残業に就きえなかつたとしても、それは支部が自主的な判断に基づき、自ら選択した結果に外ならず、かかる団体交渉の経緯をもつて上告人会社が専ら差別状態をもたらそうとして故意に協約の締結を阻害した結果であるとか、あるいは上告人会社が支部に対し前記のような残業の条件を提示してこれを堅持してきたことの主たる動機・原因が、支部所属組合員を長期間経済的に不利益を伴う状態に置くことにより、組織の動揺や弱体化を生ぜしめんとの意図に基づくものであつた、などということは到底いいえないところである。

五  なお、多数意見は、合併の前後において上告人会社の行為に不当労働行為とされるものがあつたことを上告人会社の不当労働行為意思を認める一つの事情としているようであるが、上告人会社が支部に対する一般的な反感を有していたことを窺わせるものがあつたとしても、本件の問題における上告人会社の態度が不当労働行為意思あるいは支部に対する反感に根ざすものとみることはできないものといわなければならない。

六  以上の次第であるから、私は、製造部門における支部所属組合員の残業組み入れ拒否は、なんら支部に対する支配介入として不当労働行為を構成するものではないと考える。

七  次に、間接部門についてみると、確かに同部門においては遅番勤務がなく、交替制と組み合わされた計画残業を実施しているわけではないから、同部門における支部所属組合員に残業をさせるかどうかは前記交替制勤務や計画残業に対する支部としての反対の態度とは切り離して考えなければならない問題である。したがつて、上告人会社が間接部門に勤務する支部所属組合員に対しても昭和四二年二月以降一切残業を命じないとする措置をとつたことについては、客観的にみれば正当な理由があるとすることはできない。

しかし、そうであるからといつて、多数意見のように直ちにこれが支部に対する支配介入意思に基づくものであると推断するのは正当とはいえないと考える。その理由は次のとおりである。

1  間接部門における残業は、各職場の職制が業務の必要に応じて個々に残業を命ずるのであるが、旧プリンスの事業場においては、会社の合併をめぐり旧プリンスの従業員の大多数がむしろ積極的に上告人会社との合併を望み、これに消極的な執行部と対立し、全金から脱退する決議を行い、プリンス自工組合を結成した経緯から、支部に残留した組合員とプリンス自工組合結成に動いた大多数の従業員との間に感情的な対立を生じ、双方の組合員が職場内で反目し合う状況が生じた。このような状況のもとでは、上告人会社が、日産型交替制及び計画残業に反対する情宣活動等を強力に展開していた支部所属の組合員に対し残業を命じても十分な残業の成果をあげることはできないと判断したとしても、無理からぬ点があつたというべきである。また、支部は、製造部門、間接部門を問わず、その所属組合員が昭和四二年六月まで残業を命じられなかつたことに抗議したり、是正を要求したりすることはなかつたのであつて、これは、当時の職場の状況のもとにおいては、支部所属の組合員を残業から排除する措置をとつた上告人会社ないし各職場の職制の判断にもそれなりの合理性があつたことを裏付ける事情になるものと考えられる。

2  のみならず、上告人会社は、昭和四六年六月一八日から翌四七年四月一八日までの八回にわたる支部との団体交渉において、製造部門の問題と間接部門の問題とを明確に区別する態度に改め、支部に対し、間接部門については以後残業を命ずることとするからこれに服するよう提案したのにかかわらず、支部は、同部門における支部所属の組合員はほとんど残業を必要としないような作業や質の低い作業に就かされているのでその改善が先決であり、その点が解決されない限り右提案は受け入れることができないと主張して残業に就くことを拒否したのであつて、かかる支部の姿勢にもかかわらず、上告人会社が個々の支部所属組合員に残業を命じたとすれば、新たな紛争の種になることはみやすいところであるから、結局、上告人会社がその後も支部所属組合員に対し残業を命じなかつたことは、支部がその自主的な判断により前記のような条件を出して上告人会社の申入れを拒否したことの結果によるものというべきである。

3  したがつて、間接部門についてみても、上告人会社の措置は、なんら不当労働行為を構成するものではないというべきである。

八  以上の次第であるから、私は、本件において不当労働行為は成立しないとした第一審判決を正当として支持すべきものであり、右と異なる判断に立つ原判決は不当であるから、これを破棄して、被上告人の控訴を棄却する判決をすべきものと考える。

(木戸口久治 伊藤正己 安岡滿彦 長島敦)

上告代理人小倉隆志の上告理由

上告理由を述べるに当つての序論<省略>

第一点 憲法三二条、七六条違反

原判決は二〇丁表から裏にかけて「労働委員会は、労使関係において生ずべきこの種の問題につき、とくに深い専門的知識経験を有する委員をもつて構成する行政委員会として、法が特に設けたものであるから、右の不当労働行為の成否に関する労働委員会の判断は、右の意味において、これを尊重すべきものであり、その判断の当否が訴訟上争われる場合においても、裁判所は、委員会の作成した命令書における理由の記載のみに即してその当否を論ずべきではなく、命令書に明示的にあらわれていないが、労働委員会の考慮の中にあり、判断の一基礎となつたと想定される背景的事情や、関連事実の存否にも思いをいたし、これらとも関連づけて当該認定もしくは判断が十分に合理的根拠を有するものとして支持することができるかどうかという見地からその適否を審査判断すべきものと考える。」と判示した。

しかしながら、右判示は行政裁判所を設置して行政権を保護し行政国家制度を採用した明治憲法の下でならいざ知らず、司法国家に切り換えた日本国憲法の下では通用しないものである。日本国憲法七六条二項は「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」と、三項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と規定し、三二条は「何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と規定する。これら諸条項の趣旨は、不当労働行為救済申立事件に即してみると、第一には労働委員会の命令が違法であるか否かは第三者機関である司法裁判所が最終的に決定すべしとするものであり、第二に司法裁判所の裁判官は、命令が違法であるか否かを判定するに当つては、憲法及び法律のみに従つて公平中正の立場でこれを行うべしとするものであり、第三には、右のようにして始めて国民の裁判を受ける権利が真に保障される、というものである。現憲法が、明治憲法時代の行政国家を司法国家にと一大転換をなし、司法権の行政権に対する優越を認めたとされるゆえんである。それゆえ、裁判所が労働委員会の命令が違法か否かを判定するに当つて、原判決の判示するように、労働委員会の判断を尊重すべきであるというが如きことは、本来憲法の予定していないところであつて、明らかに憲法の前記各条文に違反するというべきである。ましてや命令に記載されていない諸事情まで斟酌せよというに至つては行政権の優越を認めるようなもので全く論外である。

しかして原判決は、労働委員会が深い専門的知識経験を有する委員によつて構成されることを理由としてあげているのであるが、かかる理由は到底前記判示を正当化し得ない。そもそも労働委員会が、専門的知識経験を有する者によつて構成させるというのは抽象的にはいい得ても、現実にそうであるかどうかは別問題で、果して建前通りに構成されているかどうかは、本件では証拠がないのであるからわからないのである。仮に建前と実態が一致するとしても、行政処分は労働委員会の命令に限らず、すべて多かれ少なかれ専門的知識経験を有する者によつてなされるものであるから、原判決の論法をもつてすれば、裁判所はすべての行政処分の効力判定に当つて、常に当該処分を尊重しなければならなくなるという驚くべき結論に到達することになる。また不当労働行為事件は、現憲法体制下にあつては、何も労働委員会にだけ提訴すべしというのではなく、裁判所にも直接提訴できるのであつて、これよりすれば裁判官も労働委員会の委員程度の専門的知識経験ぐらいは少くとも有しているとみるべきである。そうでなければ法律は、裁判所が不当労働行為事件の提訴を直接受理するのを許さない筈である。このように考えても、労働委員会の命令を裁判所が尊重すべき理由は全くないのである。

さらに、原判決の右判示が誤つており、憲法に違反するものであるのは次の理由によつても明らかである。すなわち、労働委員会の委員は「労使関係や労働法の法理に深い理解を有する者が選任されているというものの、非常勤であり、しかも任期は二年(昭和四一年以前は公労委の委員を除き一年)という短期間であつて、公正取引委員会や選挙管理委員会の委員よりも一般的に信頼度が低いといわざるをえない」(塚本重頼「労働争訟の課題と展望」―別冊判例タイムズ第五号一四頁)という現状にあるのがその一である。また審査手続にしても労組法二六条に基き中労委が制定した規則によつて運営されているにすぎず、いわゆる法による適正な手続が保障されているとはいい難いことがその二である。さらに公正取引委員会の審決取消の訴、選挙管理委員会を相手取る選挙無効、当選無効の各訴がいずれも二審制をとつているのに対し、不当労働行為申立事件の命令取消の訴は逆に五審制をとつているというのは法律自体が労働委員会の命令に不信を抱いている証左であるというのがその三である。

論者あるいは、「労働委員会の裁量に対して裁判所があまりにも容喙しすぎるのではないか」とか「労働委員会は本来自由濶達に、当該事件に対して最も適切妥当と考える命令を発すべきことが期待されているにも拘らず、裁判所で取り消されることを危惧して、引込思案になりすぎているような気がしてならない。」というかもしれない(石川吉マ衛マ門「不当労働行為の救済命令と裁判所の裁判との関係」―田中先生古稀記念論文集下一二四〇頁御参照)。あるいは原判決が前記のような違憲の判示をしたのも、このような声に毒されたのかもしれない。それはともかくとして、右の如きはこれまたすこぶる明治憲法的発想であり、日本国憲法下にあつては許されない主張であるのに変わりなく、善意に受けとめるにしても裁判所に対する単なる甘えにすぎない。むしろ「行政事件訴訟においても裁判官に独立第三者性が確立されていてこそ、国民の「裁判を受ける権利」(憲法三二条)をふくむ人権の手続的保障を行政権との関係において実あらしめることができよう。主権者国民から信託され国民の人権を最大限に尊重していくべき行政(憲法前文、一三条)は、国民から権利侵害の疑いをかけられたときには、司法裁判所という独立の第三者による裁判に服するものでなければならない。行政権は法廷で被告席につけられ、司法裁判権の下に立たされることで、権威をおとしめられたと感ずるべきではない。たしかに行政の適憲・適法性という法律問題については、行政権は司法権の判断に拘束され、「司法権の優越」(Judicial snp-remacysic)をその意味で認めなければならない(憲法八一条が行政「処分」の違憲審査を司法裁判所の権限と明記している)。だがそれがとりもなおさず、司法裁判所という『第三者の批判を受けて立つ構えの行政、第三者の吟味に耐えうる行政』ということであれば、それこそ現代行政の堂々たる姿であると考えられるであろう。そして現代行政にたくわえられた専門的技術的水準は、まさにその方向において活かすべきものであろう。」(兼子仁「行政争訴法」―現代法律学全集一一巻一六三頁)というべきである。原判決は前記の甘えに迎合便乗し、司法裁判所の責務を放棄したものである。

第二点 計画残業の意思についての審理不尽、理由不備

支部らの救済申立が、製造部門については、支部所属組合員にも計画残業に服せしめよというものであり、この申立を理由あらしめるには、第一に支部所属組合員が計画残業に服する意思を有すること、第二に支部が会社に計画残業に服せしめるべきでママことを要求した事実が存在すること、第三に会社がこの要求を拒否した事実が存在すること、が必要であるのは、すでに序論において詳述した通りである。従つて、右第一の支部所属組合員が計画残業に服する意思を有することが明らかにされない限り、第二、第三の要件の存否を論ずるまでもなく、支部らの救済申立は棄却を免れないのである。会社はこの趣旨の主張をすでに一審から継続してきたところである。

すなわち、昭和四九年五月七日付準備書面一四頁で「支部が、日産労組員と同一内容の残業をさせることを求める以上、支部組合員が日産労組員と同一内容の残業に服する意思と能力を有することをまづ支部において主張立証すべきであつて、それがなされない限り、救済申立は却下されるべきが当然である。

すなわち、右意思と能力についての立証責任は支部が負担するというべきである。しかるところ、本件においては、支部組合員が計画残業に服する意思と能力を有することの主張も立証も何らされていないのであつて(このことは本件全証拠を通観すれば明らかである)、それにも拘わらず、被告が救済命令を出したのは違法である。」と主張し、原審においても昭和四九年一一月二八日付準備書面一頁から四頁にかけてと昭和五一年一二月三〇日付準備書面一頁から二頁にかけて、同様の主張をしている。これが本件における会社の第一次的主張なのである。会社が主張立証責任について言及しているのは、この種不当労働行為救済申立事件における主張立証責任の分配が法律、判例、学説を通じて必ずしも明らかではないので、とくに裁判所にその点を判断してほしかつたからである。会社の主張が認容されると、支部が計画残業を会社に要求したかどうか、会社がこの要求を拒否したかどうかを論ずるまでもなく、本件行政訴訟の結論が導き出され、裁判所のみならず、当事者にとつても訴訟経済上益することになるのはいうまでもない。その意味でこの第一次的主張は極めて重要なものである。しかして会社は、右第一次的主張が容れられないのを前提として、第二次的に支部が計画残業に服せしめよと要求した事実はなく、むしろ強制残業としてこれに反対し拒否したこと、従つて会社が支部の要求を拒否したことにはならないと主張しているのである。

ところで会社の第一次的主張との関連において、中労委命令をみると、支部所属組合員が計画残業に服する意思を有していたとの認定はどこにも見当らない。右命令の四五頁では「会社に対し三六協定に基く残業には協力するとの態度を表明していること、また、製造部門においては計画残業をしていることを承知したうえで残業組入れを申し入れていること、支部はそのビラで残業は個人の自由意思でやらせろ、人間を増やせとの闘いを組もうとの趣旨を将来の方針として呼びかけてはいるが、会社との現実の団交においてそのような主張をした事実は認められないこと、また前記第1の2の(2)認定のとおり支部組合員は以前日産労組員と同様の残業をしていたことがあるが、その際恣意的に残業をしなかつたりすることがあつたとは認められないこと等」をあげるが、これをもつてしても計画残業の意思があつたとは到底いえないことは、すでに会社が一審昭和四八年七月一六日付準備書面九頁から一三頁に主張した通りである。もともと意思があるかないかは支部らが労働委員会の審査の段階で、一言「計画残業に服する意思は確かにあります。」と準備書面で主張するか、あるいは証人がそのことを証言することによつて至つて簡単に解決する事柄である。それにも拘わらず支部らはこの点について固く口を閉じて全く主張もしなければ立証もしていない。これがすでに計面残業に服する意思のなかつたことを明確に裏付けているのである。従つて、中労委は救済申立を直ちに棄却すべきであつたのである。

しかして、原審の段階になると、計画残業に服する意思のないことが余すところなく明白になつている。会社が序論で述べたように、支部所属組合員を昭和四八年六月四日から計画残業に服せしめようとしたところ、一審判決が二一丁裏から二二丁表に認定し、原判決も三〇丁表に引用する通り、支部は「計画残業に服するか否かについては支部所属組合員の自由意思によるべきであるということを前提として計画残業に協力する旨回答した」のであり、計画残業に組み入れた結果は、支部所属組合員は現実に計画残業に服さず会社に日々業務上の支障を与えつつあるのも顧りみないのである。よつて計画残業に服する意思のないことは明らかである。その結果、日産労組所属組合員より有利な扱を実現していることになるのはいうまでもない。さらにまた支部の書記長である鈴木孝司証人は、原審昭和五一年五月一八日付証言調書二七丁裏で、支部所属組合員の「残業に対する協力の姿勢が四一年当時から非常になくなつてきているという実態が」あることを明確に証言している。昭和四一年といえば、支部らが東京都地方勇働委員会に救済申立したときよりも一年も前のことで、この当時から計画残業に服する意思がなかつたことが明らかなのである。

なお、原判決は三〇丁表で「当審における証人鈴木孝司は、右のように支部組合員の残業就労率が低いのは、長年残業から外されていたため生計維持上内職やアルバイト等をしていたことによる惰性や、職場における日産労組員との人間関係の冷却による勤労意欲の阻害によるものである旨証言しているが、このような事情が一つの原因をなしているであろうことは推断に難くない。」とカッコ書で判示している。原判決がこれを何の為に判示したのかは不明である。しかし、繰り返して述べるが、支部らの求める救済の内容が、計画残業に服せしめるべしというものであるからには、計画残業に服する意思が存在することが必要とされるのであつて、計画残業に服する意思が存在しないということになれば、その理由の如何を問わず、救済申立は棄却されざるを得ないのが理の当然である。しかも原判決のいうところの推断も甚だ一方的で不当である。乙第二九号証によつて明らかな通り、支部所属組合員の一人当り平均残業時間は全従業員一人当り平均残業時間に対して、昭和四〇年七月から昭和四一年七月までの間においても、著しく少ないのである。この期間は計画残業を実施した時期よりもはるかに以前の合併前のことであるから、もともと支部所属組合員は残業の意欲がなかつたとみるのが正当である。これに対して鈴木証言は具体性に全く欠けるのであつて、このような抽象漠とした証言を根拠に推断するのは間違つている。この点原判決も二四丁表において乙第二九号証をもとにして「支部組合員の残業実績は、一般従業員の平均残業時間の半分から三分の二程度であつたこと(ただし合併後は残業自体の量も減つたこともあつて、ほぼ同様かないしは平均を上廻ることもあつた。)」と判示しているのである。一方でこのように判示しながら、他方で前記のように推断するのは全くの矛盾である。

以上の通りであるから、原裁判所が会社の第一次的主張に着目して審理すれば、中労委命令は取り消さざるを得なかつた。しかるに、原判決をみても、会社の第一次主張については全く言及しておらず、何らの審理判断も加えていないのが明らかである。よつて原判決には審理不尽、理由不備の違法があるといわねばならない。

第三点 計画残業反対についての憲法違反、理由不備等

会社の第二次的主張は、支部が計画残業を強制残業と指称してこれに反対し、かつこれに服することを拒否したということである。

この主張との関連で中労委命令をみると、支部が団体交渉において、残業に関し会社に何を要求したかが全く不明である。少くとも計画残業に服せしめよと要求したと述べていないのは確かである。ただ上告理由第二点で指摘したように、支部が三六協定に基く残業には協力するとの態度をとつたこと、製造部門では計画残業をしていることを承知した上で残業組入れを申し入れていること、を認定しているので、支部が計画残業に服せしめることを要求したことを言外に認定したとしか思われない。むしろ中労委が救済申立を認容した最大の理由は、支部が右のような要求をしたと認定したところに存するのである。中労委命令を熟読すればその判断の筋道は、支部が計画残業に服せしめるべきことを要求したにも拘わらず会社がこれを拒否したということにあるのは明らかなのである。いくら中労委でも支部が計画残業に反対したとの判断に立てば、救済申立は是認し得ないのである。しかし、支部が真に計画残業を要求したくば、「計画残業に服させて下さい」と一言述べればそれですむことである。まして中労委命令の認定する如く支部は会社が「計画残業をしていることを承知」していたのであるからなおさらのことである。そうであるから、何も「三六協定に基づく残業には協力する」といつた一見意味不明の極めてまわりくどい表現をする必要は毫もないのである。むしろ残業は自由意思でやらせろとのビラでの主張や乙第一二号証 四二年一一月二三日のところに明かなように「われわれは前から残業反対などとはいつていない、三六条に定められた残業には前から協力してきたではないか、ただ強制残業には反対だといつているのだ、それは今もかわりがない」との団体交渉での発言を綜合してみれば、支部は旧プリンス方式の残業を要求していたとしかいいようがないのである。このようにみてくれば支部が計画残業の要求をしていないのは明らかであり、敢えて要求しなかつたのは反対していたからといわざるを得ないのである。

従つて、中労委命令は理由なきに帰し違法なのである。

それにも拘わらず中労委命令の結論を支持した原判決もまた違法というほかはない。その違法な点を会社の主張に即しながらさらに具体的に指摘すれば次の通りである。

一、会社は、支部がビラによつて計画残業を強制残業として反対したと主張するものである。

右につき一審判決は二三丁表から裏にかけて、支部のビラが計画残業に反対する趣旨のものであることを認定した。中労委の認定するように、支部は「計画残業をしていることを承知」していたのであるから、反対するものは計画残業しかないのである。

ところが原判決はこのビラによる支部の主張がいかなる趣旨のものであるかについて何らの判示もしていない。まずこの点が理由不備である。

二、次に会社が支部が団体交渉においても計画残業に反対し、これに服するのを拒否したと主張するものである。

(一) 昭和四二年六月三日から昭和四三年一月二六日までの団体交渉については、一審判決は一九丁裏から二〇丁表にかけて、支部の主張が計画残業に反対する趣旨のものであると認定した。これに対し原判決は二五丁裏から二六丁表にかけて、「揚げ足とり的応酬に終始し」等とするのみで、支部が計画残業を要求したのかそれとも反対したのかについての明確な判断を回避している。これは、原判決にしても、支部が計画残業に服せしめよとの要求をしたとは遂に認定し得なかつたからにほかならない。前述のように、中労委は、支部が計画残業を要求したと判断しており、原判決は中労委の判断を尊重すると明言するのであるから、裏付けとなる証拠さえあれば、原判決も必らずや積極的に中労委と同様の判示をした筈であるにも拘わらず、さすがに証拠がないから遂に判示し得なかつたのである。かえつて原審では計画残業に服せしめよとの要求をしていないことを積極的に裏付ける証拠が出ているのである。すなわち、乙第二四号証の三鈴木孝司の証言調書一〇三項がそれである。同証人は、「それじや必要なときにやつてもらえないようでは困るんだという会社の発言に対しては、いやそうではないと、ちやんと必要なときはまあやむを得ない限り必らずやりますよという回答はしていなかつたということですね。」との質問に、「ええ、それはそうまではつきり言つていません」と証言しているのである。かくして、計画残業に服せしめよと要求しなかつたのは、明らかであり、要求しなかつたのはこれに反対だつたからというのが容易に認定される。加えて強制残業反対とか残業は自由意思でやらせろとかのビラや団体交渉で主張しているのをみれば、支部が計画残業に反対していたと認定するのに何の支障もないのである。従つて、原判決がこれを判示しなかつたのは事実認定に関する経験法則を無視するもので、判決に影響を及ぼすべき違法がある。

(二) 次に昭和四六年六月一八日から昭和四七年四月一八日までの団体交渉についてみると、原審昭和五一年九月七日付小林輝行の証言調書一五丁裏から二一丁表に明らかな通り、支部はこの団体交渉においても計画残業に反対したのである。

これを具体的に述べると、会社はこの団体交渉で、乙第五八号証別紙の通り、現業部署と非現業部署に区別して残業に関する提案をしたところ、これに対して、支部が夜勤部署と非夜勤部署に区別すべきであると主張し、会社もこれに応じてその通りに改めた。(以上は乙第六一号証大庫朝吉の証言調書三六丁から三九丁によつても明らかである。)このため、この非夜勤部署の中には、夜勤の伴わない計画残業を実施している職場も含まれるので、会社はその職場に関しては、いわゆる間接部門の残業と同様に夜勤に関係なく計画残業に服せしめるとの提案をしたことになる。しかし支部は間接部門の残業とともにこの計画残業をも拒否したのである。なお、この拒否した事実が数々の証拠によつて明白であるのは後記上告理由第五点で述べるところであるが、いずれにせよ原判決が右の事実を見落して何ら触れていなかつたのは審理不尽、理由不備である。

(三) 会社が昭和四八年六月四日から支部所属組合員を計画残業に服せしめたところ支部がその際の団体交渉で、協力するか否かは組合員個人の自由意思にまかせる旨主張し、現実に日産労組所属組合員の如くには計画残業に服していないことはすでに述べた通りであるが、これも支部が計画残業に反対していることを如実に物語るものである。そうするとふりかえつてみて支部が昭和四二年の団体交渉においても反対していたのも首肯できるのであり、支部の態度が一貫していることになり、その意味で右事実も重要である。しかし、原判決は、これについても何の評価判断も加えていないのであるから、審理不尽、理由不備の違法がある。

(四) 前述のように、原判決二五丁裏から二六丁表にかけての判示では計画残業に関して支部がいかなる態度をとつたのか明確ではないが、三二丁裏から三三丁表にかけては「被控訴人は、前記のように、旧プリンスの合併前から日産労組との協定に基づいて実施していた昼夜二交替勤務制と計画残業を合併後の昭和四二年二月一日から旧プリンス事業部門にも導入し、支部組合員を除く同部門の他の従業員をこれに組み入れたにも拘わらず、支部組合員のみはこれに組み入れなかつたのであるが、被控訴人はその理由として支部が右の勤務体制に反対している点を挙げていること、支部自身もまた右勤務体制を無条件で承認することを拒否し云々」と判示する。このうち、「右の勤務体制」が何を意味するのか必ずしも明らかではないが、前後の関係から昼夜二交替勤務制及び計画残業を意味するものと解するほかはない。しかりとすればまず第一に問題になるのは計画残業を無条件で承認することを拒否したことは一体いかなる事実を指してそのようにいうかであるが、その具体的事実は原判決のどこをみても明らかではない。もし夜勤と共に計画残業に服するのに反対したのであつて、夜勤と切り離すのなら計画残業に服することを承認していたというのであれば、これは明らかに誤りである。すでに述べたように支部は計画残業そのものに反対していたのである。いずれにせよ原判決が「無条件で承認することを」という文言を使用しながら具体的事実をあげていないのは、明らかに審理不尽であり理由不備である。第二に、本件救済申立の趣旨が計画残業に服せしめよというものであるのも前述した通りであるが、これを前提にして考えれば、たとえ「無条件で承認すること」という前置がつくとしても「拒否」したことには変りがないのであるから、支部の態度は矛盾し、その申立は基本的に理由がないことに帰する。従つて、それにも拘わらず本件救済命令を適法とした原判決はまことに矛盾しており、理由不備、理由齟齬の違法が甚だしいといわなければならない。しかも後にも指摘するように原判決は四〇丁裏で、本件救済命令が「無条件残業組入れを既定の事実としてこれを実施すべきことを被控訴人に命ずる」のはおかしいではないかとの疑問に対して、「このような疑問は理由がないと考える」としているのである。そうすると原判決は、支部が計画残業を「無条件で承認することを拒否」しているにも拘わらず、命令が「無条件残業組入れ」の実施を命じたのが適法だとしていることになり、前後益々矛盾し、理由不備、理由齟齬も一層歴然とするのである。第三に原判決は「残業組入れ拒否」という判示を随所で行つているが、支部が計画残業を「拒否」していると認定する以上、会社の組み入れ拒否という事実はあり得ないのであつて、この点も原判決の大いなる理由齟齬である。

三、最後に主張するのは原判決の憲法違反である。すでに述べたように中労委命令が救済を認容したのは、支部が計画残業を会社に要求したとの判断を最大の理由とする。ところが原判決は、支部が計画残業を「拒否」したと中労委の判断とは正反対の認定をし、しかも中労委の命令を適法なりと維持したのである。これは原判決が中労委命令の理由とは全く別個の理由で新たなる救済命令を出したことにほかならない。いわば原審が行政庁の役割を果したのである。しかも、計画残業に服せしめるべしというのが本件救済申立の趣旨であるにも拘わらず、計画残業「拒否」の事実を認定をして置きながら、なぜ中労委命令が維持されるべきかの理由が原判決では一向にはつきりしない(論理的に矛盾しているから、はつきりさせることは不可能である)。

よって、原判決は司法権と行政権の分離独立を定めた憲法六五条、七六条に違反するとともに、理由不備の違法があるというべきである。

第四点 命令の内容の適否に関する理由不備

一、支部らは計画残業に服せしめるべしとの内容の救済申立をなし、中労委は支部が計画残業を要求したにも拘わらず会社がこれを拒否したのが不当労働行為であるとした。従つて救済命令は「会社は支部所属組合員についても計画残業に服せしめよ」とか「会社は支部所属組合員をして日産労組所属組合員が服している残業と同一の残業に服せしめよ」とならざるを得ないところである。それにも拘わらず中労委の維持した都労委命令主文は「被申立人は、支部所属組合員に対して時間外勤務(休日勤務を含む。)を命ずるにあたつて支部所属組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取り扱つてはならない。」というものであり、これをみただけでは、一体会社がどのように取扱えば差別しないことになるのかが全く不明なのである。しかして命令の理由と照合してみても一向に明らかにならない。これは理由中の判断と主文の表現が一致していないからである。その結果現に当事者間にこの主文の解釈に争が生じているほどなのである。これについて述べると、会社は救済申立の趣旨及び命令理由の判断よりして、この主文が支部所属組合員に対しても、直ちに計画残業に服せしめることを命じたものと解釈せざるを得ず、それが正しい解釈と信じるものである。ところが中労委は、一審昭和四九年九月一七日付準備書面二丁裏から三丁表にかけて「なお、当委員会命令主文の原告の理解について一言すれば、会社の計画残業については、日産労組との関係をふくめ、支部との間においても協議をつくすことによりその運用等について是正の余地があることも考えられる以上、支部組合員が現行計画残業に無条件で服することを命じたものと解することは妥当でない。」との解釈を突然提起してきたのである。この解釈によれば、命令主文は計画残業に服せしめることを命じたものではなく、むしろ残業について会社が支部と協議すべきことを主として命じたことになる。また一方、支部らは、原審昭和四九年九月二六日付準備書面一〇丁裏で「その趣旨は、会社は直ちに支部組合員に対し、現状の下において、他の労働組合員にさせているのと同じ時間外勤務をなし得る機会を与えなければならないと理解されなければ、救済の意味はない。その機会を与えるについて一切の条件を付することは許されない。」と主張する。この解釈だと、計画残業に服する機会だけを直ちに無条件で付与すべきで、これに服するか否かは支部所属組合員の自由であるということになる。こうして三者三様の解釈をしているのが現状で、これでは会社は困惑するばかりである。それゆえ、右命令主文は、抽象的すぎあまりにも不明確で違法であり取り消さるべきであると主張するものである。

これに対して原判決がどのように判断したかというと、三八丁表から裏にかけて「右命令は、被控訴人による本件支部組合員の残業組入れ拒否が、不当労働行為であるとの認定に基き、これに対する救済措置として命ぜられたものであるから、それは何よりもまず、右の不当労働行為による違法状態を解消ないし是正するため、被控訴人が現に行つている右残業組入れ拒否の中止を命ずる趣旨に出たものと解される。換言すれば、被控訴人が現に行つている残業組入れ拒否は支部組合員に対することさらな差別取扱であるからこれを止めよということであり、これを裏返していえば、支部組合員を他の労働組合員すなわち日産労組員と同様に残業に組み入れるべきことを命じているものにほかならない。そのかぎりにおいて右命令になんら不明確な点はなく、被控訴人の主張は、ひつきよう右命令について独自の解釈をたて、さらにこれを理由として内容の不明確性を云為するものであり、採用の限りでない。」とした。しかしながら、原判決自体も白状しているように、命令主文は「換言」してみたり「裏返し」してみたりしなければ、その具体的意味内容が容易に出てこないのである。これを不明確でないとしたら他に何を不明確といえるのであろうか。従つて、原判決が「なんら不明確な点がなく」としたのは首尾一貫せず、理由不備、理由齟齬の違法が明らかである。また、原判決が裏返えしてみた中労委命令主文の意味は、「日産労組員と同様に残業に組み入れるべきこと」であるから、製造部門では計画残業に服せしめることであり、結局会社の解釈と一致するものである。従つて、会社が独自の解釈をたてて論じているとの判示も矛盾するのであつてこの点も理由不備、理由齟齬である。さらに、原判決が一方では支部が計画残業を「拒否」したのを認定しながら他方で計画残業に組み入れよとの趣旨に命令主文を解釈しこれを正当とした。しかも四〇丁裏においては「誠実に団体交渉を行うべきことを命ずる限度にとどまるべく、無条件残業組入れを既定の事実としてこれを実施すべきことを被控訴人に命ずるのは、救済措置として是認される範囲を越えて使用者に留保されるべき自由を不当に拘束することとなりはしないかという疑問」に対して、「このような疑問は理由がない。」と自問自答しているのをみると、命令主文は団体交渉等はさておいて無条件に支部所属組合員を計画残業に服せしめることを命じたものであると原判決が解しているのは疑いない。しかして「拒否」している者をどうしてこのように無条件に服しめられるのか、これまた大いないママ矛盾である。従つてこの点においても原判決は致命的な理由不備、理由齟齬を犯しているのである。

二、さらに原判決は、逆差別の問題について、三九丁裏から四〇丁表にかけて、「被控訴人としては、支部との団体交渉を通じてその承認をとりつけるか、あるいは日産労組とのそれにおいて同労組の承諾を得られるような形でこの問題を処理させる等の調整、解決の方途がなお広く開かれているのであり、その意味においては、残業組入れの問題と交替制の問題とは、控訴人委員会のいうように一応可分なのである。」と判示した。

しかしながらこの判示もまた不当である。第一に、「調整、解決の方途がなお広く開かれている」というが、具体的にどのように調整できるというのか、また解決できるというのか全く不明で、これでは会社は承服し難いのである。ひるがえつてみると、原判決の右判示の根拠となる証拠は本件では何ら存在しないのである。第二に、計画残業に服させないのは支部ないしその所属組合員に不利益であるから無条件に服せしめよとしておりながら、夜勤の方だけは支部ないし支部組合員の利益に必ずしもつながらないからよく話し合つて適当な結論を出せというのは会社にとつてあまりにも不公平である。反面組合のわがままをそのまま許容することである。夜勤も会社の生産秩序であつて、支部所属組合員をもこれに服させることが会社にとつては利益なのである。これに対して支部は会社の夜勤に全面的に反対しているのである。原判決は、この点に目をおおつているとしか思われない。

よつて、以上の二点について、原判決は不当労働行為制度の法律の解釈適用を誤り、理由不備の違法があるというべきである。

第五点 本件救済命令の必要性についての法律違反

一、計画残業については、支部にその意思もなく、従つて要求もなく、むしろこれに反対していたのであるから、本来救済命令を出すべきではなかつた。それにも拘わらず命令が出されたので、会社は中労委命令の履行として支部所属組合員を計画残業に服せしめることとして昭和四八年六月四日から実施しているのであるが、支部所属組合員はこれに服さず、日々会社に業務上の支障を与えている。これは一つの違法状態であるといえる。すなわち中労委命令の残したものは計画残業に関してはこの違法状態だけである。なんと不当な命令であつたかが明らかである。さらに結果として、支部は、計画残業を欲しているかのように装つて労働委員会を錯誤に陥しいれ、たまたま救済命令が不明確であつたのを奇貨として計画残業とは別個のいわばプリンス方式の自由意思による応諾者のみによる残業を大威張りで実現してしまつた。このことは、支部が甲第一五号において、「中労委で勝ち、夜勤なしで、しかも本人の自由意思の時間外勤務のできる権利をかちとる」と誇らしげに宣伝していることによつても明らかである。旧プリンス方式が計画残業より従業員に有利であることはすでに述べた通りであるから、中労委命令が実現したものは、支部の本来の救済申立の趣旨に反して日産労組所属組合員よりも支部所属組合員を有利に扱うことであつた。しかして支部らは、これがまさに中労委命令の意図するところだと主張するのであるから、会社としても、うかつに計画残業から支部所属組合員を排除できないでいる。

かかる結果は、およそ現行法の不当労働行為制度に背くものであるのはいうまでもなく、さかのぼればその原因は中労委命令なのであるから、この観点からみても同命令はまことに違法であり取り消しを免れないのである。よつてこの命令を維持した原判決も不当労働行為に関する法律の解釈適用を誤つたものといえる。しかもこの誤りが判決に影響を及ぼすべきことは多言を要せずして明らかである。

二、次に間接部門の残業に関して述べる。

一審判決は二四丁表から二五丁表にかけて、「原告は、昭和四六年六月一八日から昭和四七年四月一八日までの支部との団体交渉において、右三工場の間接部門の支部所属組合員も残業に服するよう求めたが、支部からの要求であるその所属組合員の従事している作業の量ならびに質に関する問題について意見の一致をみることができなかつた結果、この間接部門における残業についても合意に達しなかつたのである。そして、これに関して、原告の執つた態度に納得し難いところがあつたことを認めるに足りる証拠はない。そうだとすれば……間接部門の支部所属組合員に対しては昭和四六年六月一八日以降残業を命じなかつたことは、支部が自らの自主的な判断により原告の申入れを拒否した結果によるものとみられるから、不当労働行為を構成しない。」とした。この判示は、会社の主張立証をそのまま認容したものである。

これに対し原判決は、二九丁裏において「間接部門については、支部は、被控訴人の提案は『必要がある場合に残業を命ずる』というのであるが、現実に支部組合員は、ほとんど残業を必要としない作業や、従前にくらべて質の低い作業に就かさママされているから、これが改善されないかぎり右の提案を受け入れることができないと主張し、被控訴人側はこれに対し、右作業の質や量の問題は、現実に残業に就いた後の過程でおのずから是正される問題であるとして譲らず、これまた合意をみるにいたらなかつた(なお支部は、その後昭和四九年五月、右の作業上の差別および昇進に関する差別を不当労働行為であるとして都労委に救済の申立をしている。)。」と判示している。この判示は、一審判決の判示をわざわざ訂正する形でなされているが、支部が会社の提案(なお、上告理由第三点で述べたように、この提案は非夜勤部署についての提案で、夜勤を伴わない計画残業も含む)を拒否したとの認定に関しては両者とも同じである。異る点は、一審は支部が拒否したから不当労働行為にはならないとしたのに、原審はなおかつ不当労働行為が成立するとしたことである。しかしどうして不当労働行為が成立するかについては全く説明がない。よつてこれも重要なる理由の不備である。そもそも支部らの救済を求める内容に立ち返つてみると、計画残業と同様間接部門の残業についても、日産労組所属組合員が現に服している残業と同じ残業に服せしめよというものである。ところが支部は、昭和四六年から昭和四七年に行われた前記判示の団体交渉において、会社の提案を拒否したのであるから、救済申立を認容する余地は完全にない。従つて原審は間接部門についても中労委命令は取り消すべきであつたのである。

なお、原判決は、支部所属組合員の仕事の問題を重視したかのような判示をするが、もしそうだとすれば無意味な判示である。その理由は第一に、救済申立の趣旨が日産労組所属組合員と同じ残業に服せしめよというものであるから、たとえ仕事の問題があるにしても、これを理由に拒否するのは全く矛盾するからである。どうしても仕事の方を先決問題にしたければ、別個にその方の救済申立をするか、あるいは本件に仕事に関する救済申立を追加して争えばよいのである。第二に、仕事の問題は支部の単なる偽造であつて、実際は支部所属組合員は間接部門においても、日産労組所属組合員と同じ残業に服する意思がなかつたのである。このことは、支部組合員が残業の意欲を喪失しているとの鈴木孝司証言、昭和四八年六月以降の実績をみると間接部門においても支部所属組合員のそれが日産労組所属組合員よりも著しく劣つていることによつてすでに明らかである。さらにその他の証拠をあげてみると次の通りである。(1) 原審昭和五一年九月七日付小林輝行の証言調書一九丁裏以下に明らかな通り、支部の仕事に関する要求書である丙第一七号証の中には、残業に本来関係のない事項しか問題とされていない支部所属組合員が多数含まれているのである。これらの者についてまで残業を拒否するのはどうしても筋が通らないのである。(2) 原判決の判示するように仕事の問題は別件として救済申立がなされているが、その対象者は僅か九名であるのは丙第一八号証からも明らかで、然りとすれば、他の組合員についてまで拒否するのも筋が通らない。(3) 原審昭和五一年五月一八日付鈴木孝司の証言調書二四丁裏から二五丁表にかけてみると「中労委命令後、いろいろ交渉がなされて仕事上の改善がなくても残業ができるような状態になりましたので都合がつけば残業ができる状態になつております。」との証言がある。これは仕事の問題にこだわらなくても残業そのものには十分に服することができたことに証明するもので、従つて仕事の問題にからめて拒否する必要はなかつたのである。(4) 甲第一三号証の中のⅡに「46・6組合の主張を全面的に認めた都労委の命令が出される。会社はこの命令を不満として、中労委に再審査申立、組合に対しては、非現業部署のみに夜勤を切離して残業を命ずることがあるとの提案がなされるも組合はこれを認めなかつた」と明確に述べられる。これは仕事のことは何も触れないで、「組合はこれを認めなかつた」とするものである。

ちなみにいえば、前記鈴木孝司の証言調書三五丁表から三六丁裏をみれば、同証人は、右甲第一三号証について「全金プリンスとして執行委員会で方針を確認しておりますので、それに基いて分会長か教宣部長が責任を持つて発行」した旨証言しながら、前記引用部分を示されるとやにわに「いや文章はこう書いてありますけれども実態はそうではありません。」と逃げの証言をしている。一体支部は実態に合わない表現のビラを平気で出しているのであろうか。右証言が嘘であるのは明らかである。ところでこの甲第一三号証は記載からも明らかなように昭和四八年六月四日に支部の村山分会が作成したものであるから、右鈴木証言によれば少くとも当時の村山分会長は作成に関係していた筈である。しかして、前記小林輝行の調書二二丁表の証言と甲第一八号証によつて明らかな通り、当時の村山分会の分会長は古内竹二郎であつた。しかるに右古内は原審昭和五一年三月一一日の証言調書一五丁裏から一六丁表にかけて、甲第一三号証の作成には関係していないと証言する。かように支部側の証言には矛盾ないし嘘が多いのである。ここでついでに、鈴木孝司証言の虚偽性について述べると、丙第二四号証の二の証言調書の一一五項から一一八項にかけて、会社側は本件不当労働行為救済申立事件の証人尋問の段階になつて始めて恣意的に残業をするから計画残業に入れるわけにいかないといいだしたもので、それ以前にはただ信頼関係がないから入れるわけにはいかないと説明しただけだと証言している。しかしながら、乙第四号証昭和四三年一〇月付支部の準備書面三丁裏では「ところで、右に関する団交は同年六月三日から六月八日、八月二六日、一〇月一四日、一一月二三日、一二月六日、同四三年一月二六日にわたつて行われて来たが、この間会社は、申立人支部所属員に残業させない理由として、申立人支部所属員は信頼できない、恣意に残業する、しないをきめるようでは、残業させるわけにはいかない、等と述べており」と主張し、乙第一二号証を援用しているのであるから、右証言が嘘であるのは明らかである。そうであるから丙第二四号証の三の七六項以下の反対尋問では支離滅裂な証言しかできなかつたのである。

三、最後に原判決は四二丁表から裏にかけて「被控訴人がいつたん命令に従つて右差別取扱をとりやめても、その後において同一不当労働行為意思の継続として再び残業に関する同様の差別取扱をする可能性がある以上、これを防止するためにはかかる将来反覆してなされる可能性のある行為の禁止をも命ずることができるものというべく、前記命令にはかかる行為禁止の趣旨をも命ママんでいるものと解されるから、仮に被控訴人が本件救済命令に従つていつたん現在の違法状態を解消する措置をとつたとしても、それだけでは右命令存続の必要性は当然には失われないのである。」と判示している。

しかしここで問題なのは、会社が命令の履行々為をした後の支部所属組合員の状況である。すなわち、日産労組所属組合員と同じ残業に服するのを拒否していることである。この拒否がある以上「将来の反覆」というのはもはや考える余地がないのである。しかるに原判決はこの点を全く考慮していないのであるから明らかに理由不備で違法である。

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